コラム

「えびちくわ」伝統の味を守る 愛媛県・青木蒲鉾店 2022年4月8日

今回は、愛媛県四国中央市寒川町で1950(昭和25)年に創業した青木蒲鉾店さんの「えびちくわ」を紹介します。
ちくわと言えば、豊橋の焼きちくわ、徳島の竹つきちくわ、長崎の握りちくわ、福山の鞆(とも)の浦の鯛豆ちくわ、山陰のアゴ(飛び魚)のちくわなどと、いろいろと全国に名産品がありますが、愛媛といえば「えびちくわ」。全国のちくわは、スケソウダラ、サメ、飛び魚、ホッケなどの魚肉のすり身を材料にしていますが、エビのミンチを加えているのは、ここだけです。

青木蒲鉾店さんの「えびちくわ」は、瀬戸内海のじゃこえびの頭を取りのぞいたあと、殻ごとミンチにして白身魚のすり身と自家製の豆腐を混ぜ合わせ、風味豊かなフワフワとしたちくわです。全体が淡いピンクの色合いで、地元では縁起物ものとして、またの贈答品やおつまみやおやつとして親しまれています。

さっそく三代目の青木真理さんに、えびちくわのつくり方やおいしい食べ方などを伺いました。
「明治時代から地元愛媛県の東予地方の特産品としても長年親しまれてきたえびちくわは、ちくわの食感を大事にしています。弊社は祖父が72年前に創業しましたが、他のちくわと違う点は、材料の50%以上が豆腐で、普通のちくわとは食感が異なります。豆腐は普通の木綿豆腐を再度絞って手でも崩れない自家製の絞り豆腐です」
<自家製豆腐>
こちらがじゃこえび。白身魚のすり身を混ぜ合わせえびちくわの素ができあがる。
ローラーで成形していきます

美味しい食べ方は?

「そのままちぎって食べていただくと味がよくわかります。少し炙ったら香ばしいですし、わさび醤油や大根おろしを添えてもいいですね。外装を少し開けていただいて電子レンジで30秒ほど加熱しますと、できたてのえびちくわのようにふんわりと海老とお豆腐の風味が豊かになります。みそ汁の具、きゅうりの酢の物和え、おでんにするとおだしがたっぷりしみ込みます。薄くスライスしてパンにのせて、マヨネーズとも相性がよいです。それからえびちくわの穴に山芋を入れてアヒージョに。えびちくわは火を入れるとギュっと味が濃縮されます。個性の強いローズマリーやオリーブオイルとも相性抜群です」

<えびちくわ山芋アヒージョ>

[つくり方]
材料:えびちくわ、エクストラバージンオリーブオイル、ニンニク、しめじ、まいたけ、山芋、オリーブ、ローズマリー、新宿よしも唐からし
1.えびちくわを食べやすい大きさに切り、カットした山芋を穴に詰める
2.フライパンにオリーブオイルをたっぷり入れ、刻んだニンニク、ローズマリー、しめじ、まいたけ、オリーブ、刻んだ唐がらしを入れ、弱火でじっくりと煮込んでいく。最後に山芋を詰めたえびちくわを入れて、やや煮込む

上の煮込んでいる写真はえびちくわが6個ですが、すいませんが、撮影中に我慢しきれず1個食べてしまいました。熱々のえびちくわ山芋アヒージョには、冷えたスパークリングワインがぴったんこ。これは作り方も簡単で、煮込んでいるときのオリーブオイルの躍動感がいいですよ。

エビちくわの歴史

さて、「エビちくわ」は、昔は冷凍などの保存方法がなく、瀬戸内海でとれるじゃこえびの保存の方法の一つとして考えられたそうです。主に愛媛県の東予地方西条市から香川県西部で生産が盛んになり、明治期には四国中央市寒川町だけで製造業者が約30軒あり、しかし食生活の変化、また若い人たちの贈答品離れなどで、現在、四国中央市に2軒、西条、新居浜や香川県を合わせても7軒しかありません。青木さんは、伝統の味を守り抜くために昨年の7月にクラウドファンディングを行ったところ、開始2週間で目標額を達成しました。今後はインターネット販売を強化し、学校給食への提供も行っていくそうです。

ちくわの豆知識

これより、ちくわいろいろです。

ちくわは平安時代から食されていた

紀文アカデミーの「練りものの起源」によると、「平安時代の宴席料理献立が記された書に「蒲鉾」が絵入りで載っています。かまぼこは、古くは竹を芯にしてすり身を塗りつけて焼いたもの。その形がガマの穂に似ていることから「蒲の穂」と呼ばれました。今日のちくわの原型とも言えるものです」とあり、ちくわは平安時代から食されていたことがわかります。

いちばん食べているのは鳥取市で23年連続の日本一

2021年食品データ館調べによると、日本の二人以上の世帯を対象にしたちくわの年間支出額は、全国平均1,749円。日本一は鳥取市で3,717円。2位徳島市3,121円、3位松山市2678円、東京23区は1,281円で47位、大阪市2,028円で11位、最下位は水戸市1,072円。ちなみに鳥取市は23年連続の日本一。これは鳥取県東部エリアを中心につくられている独特の加工品「とうふちくわ」がソウルフードとなっていることが理由の一つ。

紀文の「チーちく」

ちくわに何かをいつ頃からから入れるようになったが気になります。これは1996(平成8)年2月に紀文がチーズを入れた「チーちく」を販売し、これはチーズを穴に詰めたのではなく、身の中にチーズを入れてリング状に成型したちくわ。その後チーズ&サラミ、明太子&チーズ、たまご&ハムチーズなどいろいろなものが発売されています。

気になるちくわ商品

「ちくわパン」:札幌のパン屋「どんぐり」が考案した調理パン。穴にツナマヨネーズを詰めたちくわをロールパンにはさんで焼いたもの。最近で大手メーカーもいろいろ出しています。
「ビタミンちくわ」:石川県七尾市のスギヨが戦後の復興期の1952(昭和27)年に国民のビタミン不足を補うためにサメの肝油を入れて製造することを考案した。栄養機能食品としてロングセラー。
「ちくわ天ドッグ」:豊橋市ではちくわの天ぷらをコッペパンに挟んでタルタルソースをかけた「ちくわ(天)ドッグ」が販売され、喫茶店のモーニングセットでも。
「ちくわサラダ」:熊本市の惣菜製造業社のヒライがちくわの穴にポテトサラダをたっぷりに入れて天ぷらに。これがソウルフード化し、その後ミニストップが「ちくわ天」の名称で販売し、マルハニチロが「ちくわサラダ天ぷら」として冷凍食品販売。

クックパッドでは?

クックパッドでちくわのレシピがどのくらいあるか調べたら48,903品ありました。やっぱりちくわは、庶民の味方だったのであります。簡単つまみだと「ちくわのクリームチーズいくら」(ちくわに切り込みを入れて、クリームチーズやカッテージチーズをはさみ、いくらをのせてねぎを少々かける)がいいですね。また、「ちくわ醤油マヨオガタライス」という、カットしたちくわとごはん、貝割れ菜を醤油とマヨネーズで和えた料理もあり、これは火をつかわず簡単でうまそう。

チクワは疲れている

東海林さだお先生の「昼メシの丸かじり」(朝日新聞社)には「丸ごと一本チクワを皿に横たえてじっくり見てやってください。どうです、チクワは疲れているでしょう。なんだかシワシワで、ぐったりしていて(中略)もう欲も得もない、とりあえずちょっと横にならしてもらいますよ、と言っているような気がするでしょ。」とある。そう言われれば、駅そばでのちくわのてんぷらもなんだかいつも元気がないような気がするなぁ。

ちくわ名言集

さて、ちくわ名言集というものがあるならば、私作並が1980年代初めの経験で、下北沢の老舗のおでん屋の親方が、カウンターの酔っ払いがおでんを注文するとさらりとこう言った。「おまえなんかちくわの穴でも食ってりゃいいんだ」。こういう親方昔はいました。客は何も言えない。

昭和のちくわの風景

最後に昭和50年代、はつかりなんかの特急列車や夜汽車に揺られながら、ウイスキーのポケット瓶をちびりちびりやり、ちくわをひとかじり、飲んではまたひとかじりというおっさんがいました。おっさんとちくわ、東海林先生が言う通り、疲れていて、なんだかシワシワで、ぐったりしていしているモノ同士なんだけど、こういうおっさんが家庭を支え、ちくわもまた、お弁当のおかずなどで家計を支えてきたのであります。では、また。
ウイスキーのポケット瓶とえびちくわを合わせてみました。ちくわ界の上等品は、やっぱりガブっといくと自家製豆腐と白身魚のすり身と瀬戸内の海老を使ったふわふわの食感がダイレクトにきます。おっさんの食べていたちくわとは違いますわ。

文:作並太郎(本名:松木直也)
1955年生まれ。宮城県仙台市出身。桑沢デザイン研究所卒。宮城大学大学院食産業学研究科修士過程修了。(専門分野:食育)
1979年より平凡出版社(現・マガジンハウス)の雑誌編集者及びライターとして「ポパイ」「ブルータス」などに携わり、音楽や食の関係者のインタビューを行う。
のち様々な企業誌の編集長を歴任。90年代後半三國清三シェフとのフランス取材において、ジャック・ピュイゼ教授(フランス味覚研究所創設者)の「食育メソッド」の提唱を知り、 2000年より三國シェフの子どもたちの食育活動をサポート。現在、東京都市大学付属小学校での食育授業(4年生・年12回)の「ミクニレッスン」は12年目を迎えた。
吉本興業の新宿本社農園で栽培しているイチゴやトウガラシで食育活動を実施し、「新宿よしもと唐からし」を商品プロデュース。
著名人の伝記も手がけ、著書に「ミクニの奇跡」(新潮社)「加藤和彦ラストメッセージ」(文藝春秋)「アルファの伝説 音楽家村井邦彦の時代」(河出書房新社)がある。


<商品情報>

商品名:えびちくわ詰め合わせセット
販売価格:3,100円(税込)
青木蒲鉾店では昭和25年の創業以来、伝統の味を大切にし、真心込めた商品を作り続けています。新鮮な瀬戸内の魚介を使ったちくわ、かまぼこ、天ぷらを自社工場で製造し全国へ発送致します。
えびちくわは「じゃこえび」や「あかえび」などと言われる小えびを殻ごとミンチにしたものと、白身魚のすり身と自家製の豆腐を原料にした、風味豊かなフワフワのちくわです。

■内容量
 特選えびちくわ3本、じゃこ天3枚入り1袋、えび天2枚入2袋、焼板蒲鉾1本、鯛ちくわ1本、かにちくわ1本

■原材料
 えびちくわ・えび天:豆腐、魚肉すり身(スケトウダラ、砂糖)、エビ、砂糖、魚介エキス調味料、食塩、たん白加水分解物/豆腐用凝固剤、加工でん粉、トレハロース、ソルビトール、調味料(アミノ酸等)、酒精、保存料(ソルビン酸)、リン酸塩(Na)、乳化剤、着色料(赤106、カロチノイド)、酵素、(原材料の一部に小麦、えび、大豆を含む)
 じゃこ天:魚肉、食塩、植物性油脂、粉末状大豆たん白、魚介エキス、たん白加水分解物、砂糖/増粘剤(加工デンプン)、調味料(アミノ酸等)、保存料(ソルビン酸)、酒精(一部に小麦・大豆を含む)
 焼板鯛ちくわ:魚肉、大豆たん白、植物油脂、食塩、醗酵調味液、魚介エキス、砂糖、たん白加水分解物/加工デンプン、ソルビトール、調味料(アミノ酸等)、リン酸塩(Na)、保存料(ソルビン酸)、キシロース、乳化剤、酵素(一部に大豆を含む)
 かにちくわ:魚肉すり身(スケソウダラ、ソログチ、イトヨリダイ、砂糖)、かに、大豆たん白、植物油脂、食塩、発酵調味液、魚介エキス、砂糖、たん白加水分解物/たん白加水分解物/加工でん粉、カニエキス、ソルビトール、調味料(アミノ酸等)、リン酸塩(Na)保存料(ソルビン酸)、シロース、乳化剤、酵素(一部に小麦・大豆・かにを含む)

■出荷目安
 ご注文後、2営業日以内に発送致します。(クール便)

■賞味期限
 えびちくわ、えび天、じゃこ天は製造より6日間、焼板は14日間、その他は45日間

■保存方法
 要冷蔵(10℃以下)で保存下さい

■製造・販売元
 有限会社青木蒲鉾店
 〒799-0431
 愛媛県四国中央市寒川町1182番地